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静岡地方裁判所 昭和33年(行)21号 判決 1966年7月12日

原告 白都太郎

被告 浜松税務署長

訴訟代理人 朝山崇 外五名

主文

被告が原告の昭和三一年度分所得税申告の営業所得金額を金一、二三六、五〇〇円と更正した更正決定中、金一、〇一一、六四〇円を超過する部分は、これを取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを四分し、その三を原告の負担とし、その一を被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が原告の昭和三一年度分所得税申告の営業所得金額を金一、二三六、五〇〇円と更正した更正決定中、五〇〇、〇〇〇円を超過する部分はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、請求の原因としてつぎのように述べた。

一、原告は、貸金業者で農業を兼業しているものであるが、昭和三一年度分の原告の所得税について左のとおり確定申告した。

(一)  所得金額

営業所得        金五〇〇、〇〇〇円

農業所得        金  三、五〇〇円

計           金五〇三、五〇〇円

(二)  所得から控訴される金額

概算所得控除      金 一五、〇〇〇円

扶養控訴        金一五〇、〇〇〇円

基礎控除        金 八〇、〇〇〇円

計           金二四五、〇〇〇円

(三)  課税所得金額 金二五八、五〇〇円

二、被告は、昭和三二年四月六日右確定申告の営業所得金額五〇〇、〇〇〇円を一、二三六、五〇〇円と更正決定した。

さらに、同年五月三一日原告の再調査請求を棄却した。

そこで、原告は、訴外名古屋国税局長に対し審査の請求をしたところ、同局長は昭和三三年九月一九日右審査請求を棄却した。

三、しかしながら、原告は本件係争年度(昭和三一年度)において確定申告のとおり五〇〇、〇〇〇円を超える営業所得はあげていない。その算出基礎はつぎのとおりである。

(一)  総収入    金七〇一、五五一円

(二)  総支出    金四四六、〇六六円

(内訳)

公租公課        金 二七、二二四円

交通費         金  一、五〇〇円

修繕費         金 二三、六〇〇円

雑費(訴訟費用)    金一五二、六〇五円

減価償却費       金 二六、〇四六円

貸倒損失金       金二一五、〇九一円

(三)  所得((一)から(二)を差引いたもの)

金二五五、四八五円

以上のとおり、原告の本件係争年度における営業所得は原告の確定申告額五〇〇、〇〇〇円の範囲内の額である。したがつて、被告が、原告に対してなした前記更正決定は、金五〇〇、〇〇〇円を超える限度で失当であり取消さるべきである。

被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁としてつぎのように述べた。

一、請求の原因第一項の事実は認める。

二、同第二項の事実も認める。

三、同第三項の事実中、支出内訳のうち貸倒損失金を除くその余の支出費目、金額のみ認め、その余はすべて争う。原告の本件係争年度における営業所得は金一、九三六、九八七円であつて、その算出基礎はつぎのとおりである。

(一)  総収入  金二、二〇〇、九八〇円

(二)  総支出  金  二六三、九九三円

(内訳)

公租公課        金 二七、二二四円

交通費         金  一、五〇〇円

修繕費         金 二三、六〇〇円

雑費(訴訟費用)    金一五二、六〇五円

減価償却費       金 二六、〇四六円

貸倒損失金       金 三三、〇一八円

(三)  所得((一)から(二)を差引いたもの)

金一、九三六、九八七円

右原告の総収入二、二〇〇、九八〇円はすべて貸金の利息によるものであつて、その内訳の詳細は別紙営業収入明細表(I)および(II)の被告主張事実記載欄に記載のとおりであり、また右貸倒損失金の内容は別紙貸倒損失明細書中、一、被告主張分記載のとおりである。

以上の次第で、右原告の営業所得金額の範囲内でなした被告の更正決定は正当である。

原告訴訟代理人は、「右被告主張の原告の営業所得に関する主張事実中、別紙営業収入明細表(I)記載事実はすべて認めるが、同表(II)の被告主張事実に対しては同表原告主張事実記載欄記載のとおり(同表に記載した金額はいずれも現実に収入した利息で残利息は放棄したもの)であると主張する。なお、原告主張の貸倒損失金の内容は、別紙貸倒損失明細書中、二、原告主張分の法定利率による損害金欄記載のとおりである。」と述べ、なお、所得算定に関する法律上の見解としてつぎのように付陳した。

一、所得なきところ、所得課税のいわれはない。被告の主張するいわゆる「権利確定主義」は、債権はその効力発生の時で捉えるのが最も容易であるという理由で原則的にこれによつているまでのことである。所得の算定につき右原則によることが不合理、不公平を招く場合はその適用は除外されて然るべきであり、現に所得税法、法人税法中にもその適用除外ないしは適用緩和の例がみられるものである。元来権利確定主義は大量取引を継続反覆する近代的大企業に適合するものであつて、本件の如き零細な貸金業者につき機械的にそのまま適用するときは非常に不条理な算定を招来することになり極めて不当である。本件の場合は、すべからく「現金主義」により現実に収入のあつた金額をもつて所得とすべきである。

二、ことに、債権自体が訴訟で争われており、当該年度において現実に利息収入がなかつたことが客観的に明白な場合は現金主義によるべきであつて、係争中も観念的に利息収入ありとして所得を算出するが如きは余りにも形式に堕するもので不合理、不公平である。原告が約定利息の支払を得られないため、その支払を請求すべく、支払命令を申立て、あるいは訴訟を提起した場合には、法定利率を超過した分は、利息債権の放棄、または免除をなしたものとなつて、消滅するものである。

三、仮りに、百歩譲つて本件につき「権利確定主義」を適用するとしても、利息収入算定に当り利息制限法所定の利率を超える約定利率によることは違法である。すなわち、利息制限法第一条第一項によれば、同項の制限を超える利息部分につき利息契約は無効とされ、ただ同条第二項により債務者が右超過部分を任意に支払つたときはその返還を請求できないと規定されている。したがつてこれを債権者の立場からみるときは法的請求権がない債権なのであつて、利息制限法の制限内の利息債権とはその価値上格段の差がある。被告は、この点の差異を無視して利息制限法所定の利率を超過する約定利率で利息収入を算定するの誤を犯している。

仮りに、権利確定主義により約定利息で利息収入を計算するとしても法定利息を超える約定利息分は債務者の任意履行をまつのみで実際上請求できないものであるから当然貸倒れとして計上されるべきである。

四、なお、被告のなした所得決定額が正しいとするためには、単に係争年度において原告が右額を上まわる所得を上げたことを主張立証するのみでは足りず、右更正決定額算出の根拠となつた内訳の所得につき逐一主張、立証さるべきものである。

被告指定代理人は、所得算定に関する法律上の見解としてつぎのように述べた。

一、所得税法第一〇条第一項は、「第九条第一項第一号、第二号、第五号および第六号に規定する収入金額はその収入すべき金額により、同項第三号、第四号および第七号ないし第一〇号に規定する総収入金額はその収入すべき金額の合計金額による」とし、収入金額とは収入すべき金額すなわち収入する権利の確定したものをいうとしている。本件の場合においても、事業所得計算の基礎となる総収入金額は係争年度中に現実に入金した金額(いわゆる現金主義)によらず、収入すべき権利の確定したものによる(いわゆる権利確定主義、または権利発生主義)べきものである。そしてこの権利確定の時期は、原則として収入すべき金額の基礎となつた契約の効力の時である。

二、事実上収入の見込のない利息債権であつても、支払期の到来したに拘わらず放棄、または免除せず、法律上請求権を留保している限りは、税法上収入すべく確定した金額として所得に算定すべきものである。

三、利息制限法所定の利率を超過する利息部分は法律上請求できないことは原告の指摘するとおりであるけれども、債権者、債務者間において約定利率を改めない限り超過部分は依然として債務者の自然債務として存続するから、その弁済期が到来している以上弁済前といえども収入すべき金額として所得とみるのは税法上当然である。

そして当初の利率による利息額と改められた利率による差額は所得税が暦年課税の建前で期間計算している関係上、利率改訂された年度の貸倒損失として必要経費に計上すべきものである。なお、利息債権が訴訟上請求されているときは、その判決確定の時をもつて如上の制限利率に改定されたとみるべきである。

(証拠省略)

理由

一、原告が農業を兼業とする金銭貸付業者で、昭和三一年度分の所得税についてその主張の如き内容の確定申告をしたこと、被告が昭和三二年四月六日右確定申告の営業所得金額五〇〇、〇〇〇円を一、二三六、五〇〇円と更正決定し、さらに同年五月三一日原告の再調査請求を棄却したことおよび原告が訴外名古屋国税局長に対し審査の請求をしたところ同局長が昭和三三年九月一九日右審査請求を棄却したことは、当事者間に争いのないところである。

二、そこで、はたして被告が主張するように、原告に昭和三一年度において被告が右のように更正決定した金一、二三六、五〇〇円を超える営業所得があつたものかどうかについて判断するのに、被告の主張する原告の営業収入のうち別紙明細表(I)に記載分合計金一三二、三九五円については原告においてこれを認めるところであるから、被告主張の同表(II)記載分について以下同表(II)の番号順にしたがつて検討する。

1、貸付先高橋菊雄分

証人早川孝雄の証言(以下単に早川証言という)によつて、成立を認める乙第二号証および同証言によれば、原告は訴外高橋菊雄に対し昭和三一年一月に金三万円、同年七月に金二万円をそれぞれ月九分の利息の定めで貸付け、同年度中に右菊雄からその利息として合計金四三、二〇〇円の収入を得ていることを認めることができる。原告提出の甲第四四号証の一、二(金銭出納帳)の記載は原告本人の供述に徴するも、徴税対策上故意に記帳しなかつたものもあり、かなり疎漏なものであることが窺われ右高橋菊雄関係部分については、右認定を左右する資料となし得ないし、また原告提出の甲第一号証の記載は前記乙第二号証の記載に対比してたやすく信用しがたく他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2、貸付先鈴木三郎分

早川証言によつて成立を認める乙第三号証、同証言、成立に争いない乙第二八号証および証人彦坂省一郎の証言(以下単に彦坂証言という)によれば、原告は訴外鈴木三郎に対し昭和三〇年二月に金六万円、同年一二月に金三万円をそれぞれ月九分の利息の定めで貸付け、前口は昭和三一年五月に、後口は同年二月に返済を受けたが、同年度中に右三郎から利息として合計金三二、四〇〇円の収入を得ていることを認めることができる。右認定とくい違う趣旨の記載がある原告提出の甲第二号証、同第二〇号証は前掲乙第二八号証、成立に争いない乙第四二号証および彦坂証言に対比しいずれもたやすく信用しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

3、貸付先鈴木よね分

早川証言によつて成立を認める乙第四号証および同証言によれば、原告は訴外鈴木よねに対し昭和三〇年一二月に金一万円と金二万円の二口の金員を月九分の利息の定めで貸付け、翌昭和三一年五月に右よねから返済を受けたが、同年度中の利息として合計金一三、五〇〇円の収入を得ていることが認められる。前記甲第四四号証の二の記載中右認定とくい違う部分は前同様の理由によりたやすく信用しがたく他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

4、貸付先鈴木梅作分

早川証言によつて成立を認める乙第五号証および同証言によれば、原告は訴外鈴木梅作に対し昭和二六年に金二千円を月一割の利息の定めで貸付け、その際担保として着物二枚を原告に差入れ昭和三一年三月まで右割合による利息の支払をしたので、結局同年度中に原告が同人から得た利息収入は金六百円であることが認められる。前記甲第四四号証の二のうち右認定とくい違う部分の記載は前同様の理由によりたやすく信用しがたく他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

5、貸付先鈴木繁雄分

証人福谷光義の証言(以下福谷証言という)によつて成立を認める乙第六号証、同証言、成立に争いない乙第二九号証および早川証言によれば、原告は訴外鈴木繁雄に対し昭和三〇年七月頃金五万円を月九分の利息の定めで貸付け、翌昭和三一年七月にその返済を受けたが、同年度中の利息として右繁雄から合計金三一、五〇〇円の収入を得ていることが認められる。原告提出の甲第三号証の記載中右認定とくい違う部分は前記乙第二九号証の記載に徴するもたやすく信用しがたく他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

6、貸付先中村政次分

早川証言により成立を認める乙第七号証および同証言によれば、原告は訴外中村政次に対し昭和三〇年六月一五日に金一万円を利息月九分の定めで貸付け、昭和三二年八月二〇日に右元本の返済を受けたが、同人から昭和三一年度中の利息として合計金一〇、八〇〇円の収入を得ていることが認められる。右利息収入のうち一部の記載しかない前記甲第四四号証の二は前同様信を措き難く他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

7、貸付先鈴木秀男分

福谷証言によつて成立を認める乙第八号証および同証言によれば、原告は訴外鈴木秀男に対し昭和二九年四月頃金一万五千円を月九分の利息の定めで貸付け、昭和三三年九月頃右元本全額の返済を受けたが、その間同人から昭和三一年度中に利息として合計金一六、二〇〇円の収入を得ていることが認められる。前記甲第四四号証の二が右認定を左右する資料となし得ないことは前同様であり、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

8、貸付先藤田末吉分

福谷証言によつて成立を認める乙第九号証および同証言によれば、原告は訴外藤田末吉に対し遅くも昭和三一年八月に金二万円を月一割の利息の定めで貸付け、その際金二千円の利息を天引し、同年度中に利息として五ケ月分合計金一〇、〇〇〇円の収入を得ていることが認められる。原告提出の甲第四号証および第二一号証の右とくい違う部分の記載は成立に争いない乙第四三号証および彦坂証言に対比するとたやすく信用しがたく他に右認定を覆すに足りる証拠はない。もつとも、原告主張のように右貸金が前年の昭和三〇年一月二日になされたものとしても、原告提出の甲第四四号証の記載内容からみて昭和三一年度中に右末吉から右金一〇、〇〇〇円以上の利息収入を得ていることは容易に推測し得るところである。

9、貸付先鈴木重一郎分

早川証言によつて成立を認める乙第一〇号証、同証言および成立に争いない乙第三〇号証によれば、原告は訴外鈴木重一郎に対し昭和二九年五月頃三回にわたり金三万円、金五千円、金二万一千円の三口をいずれも月一割の利息の定めで貸付け、同人から昭和三一年度中に合計金六七、二〇〇円の利息収入を得ていることを認めることができる。原告提出の甲第五号証および第二二号証中右認定とくい違う部分は前掲各証拠および成立に争いない乙第四四号証の記載、福谷証言等に徴したやすく信用しがたく、また原告提出の甲第六号証の一、二、第七号証の一、二の存在はいずれも右認定を妨げるものではなく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

10、貸付先加茂一分

早川証言により成立を認める乙第一一号証および同証言によれば、原告は訴外加茂一に対し昭和三〇年七月二一日金一万円を月九分の利息の定めで貸付け、翌昭和三一年二月にその返済を受け、さらに同年一二月金二万円を同率利息の定めで貸付け同人から同年度中に合計金三、六〇〇円の利息収入を得ていることが認められる。原告提出の甲第八号証は成立に争いない乙第三一号証および早川証言によればその真正に成立したものであることすら肯認し得ないものであり、甲第四四号証の二の右加茂関係記載部分によれば右金一万円は、昭和三一年八月二日に返済を受け利息として金三千円の収入を得たこととなつているのであるから、前記利息収入の認定を妨げるものではなく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

11、貸付先鈴木安次分

成立に争いない乙第三二号証、彦坂証言、乙第三二号証の記載により成立を認める甲第九号証、原告本人の供述により成立を認める甲第二三号証および甲第四四号証中鈴木安次(白穂)関係部分の各記載を総合すると、原告は訴外鈴木安次に対し昭和三〇年末現在で利息月一割の定めとする金一万五千五百円の貸付残元本を有していたところ、昭和三一年八月六日にその返済を受け、同年度中に右安次から少くとも合計金一三、〇〇〇円の利息収入を得ていることが認められる。被告提出の乙第一二号証中右認定とくい違う部分は前記乙第三二号証の記載に徴したやすく信用しがたく他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

12、貸付先袴田勘二分

早川証言により成立を認める乙第一三号証および同証言によれば、原告は訴外袴田勘二に対し昭和三一年一月頃金一万円を月九分の利息の定めで貸付け、九ケ月位経過して元利金の返済を受け同年度中に右勘二から合計金八、一〇〇円の利息収入を得ていることが認められる。甲第四四号証の二の右訴外人関係記載部分中右認定とくい違う部分は既述の理由によりたやすく信用しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

13、貸付先西川熊平分

早川証言によつて成立を認める乙第一四号証、成立に争いない乙第三三号証、第三四号証および彦坂証言を総合すると、原告は訴外西川熊平に対し昭和三〇年一二月に金五万円、昭和三一年一月に金一五万円、同年四月に金一〇万円をいずれも月九分の利息で貸付け、それぞれ貸付の際右約定利率による一ケ月分の利息を天引したほか、金五万円に対する右利率による利息の支払を二回分受け取り、昭和三一年一〇月に右三口の貸金の元利合計として金四三万円を受領して相済みとしたこと、したがつて昭和三一年度中に原告は右熊平から少くとも被告の主張する金一四八、〇〇〇円の利息収入を得ていることが認められる。甲第四四号証の二中右西川熊平関係の記載部分のうち右認定とくい違う部分は前同様の理由によりたやすく信用しがたく他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

14、貸付先山田貞雄分

早川証言によつて成立を認める乙第一五号証、同証言成立に争いない乙第三六号証、第四六号証および彦坂証言、ならびに乙第四六号証の記載により成立を認める甲第二六号証(一部)を総合すると、原告は訴外山田貞雄に対し利息を月九分の定めとし、訴外鈴木徹男を連帯保証人として昭和三〇年末現在で元本合計金五万円の貸金債権を有していたところ、右貞雄が利息の支払ができなかつたため連帯保証人である右徹男から昭和三一年一〇月二九日右貸金の返済として元利合計金一〇万円の支払を受け、結局同年度中の利息収入として金五〇、〇〇〇円を得ていることを認めることができる。原告提出の甲第二六号証の記載中右認定とくい違う部分は前記彦坂証言および乙第四六号証と対比して信を措けず、また甲第四四号証の二の山田貞雄関係記載部分に利息収入として金四万四、二五〇円を超える分の記載のない点は前同様の理由によりたやすく信用しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

15、貸付先沢柳三郎分

福谷証言によつて成立を認める乙第一六号証によれば、原告は訴外中村きくゑに対し訴外沢柳三郎を連帯保証人として利息月九分の定めで(イ)昭和三一年四月五日金五万四、五〇〇円、(ロ)同年四月一六日金一〇万円、(ハ)同年四月三〇日金一〇万円、(ニ)同年五月一六日金一五万円を貸付け、右(ロ)、(ハ)の二口の貸金については同年一一月二九日に右沢柳から返済を受けて同年度中に右二口に対する利息として合計金九〇、〇〇〇円の収入を得右(イ)の貸金に対する利息として右中村から同年度中に金二〇、〇〇〇円の支払を受け、また右(ニ)の貸金に対しては貸付に際し天引利息として金一三、五〇〇円の収入を得たほか同年度中に右(イ)、(ニ)の貸金に対する元本および利息の支払を受けていないことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。なお、原告は右(イ)、(ニ)の貸金については昭和三一年度中に利息収入がなく右沢柳との間に昭和三三年一月二九日に訴訟上の和解が成立しその際の収入利息金五万四、六〇〇円は全額同年度収入に計上済みである旨主張するけれども、右(イ)、(ニ)の貸金についても昭和三一年度中に一部利息収入のあつたことは前記認定のとおりであり、また前記乙第一六号証によればなるほど原告と訴外沢柳三郎間に昭和三二年にいたり右(イ)、(ハ)の貸金債権に関し静岡地方裁判所浜松支部に訴訟が係属し、同裁判所において昭和三三年一月二九日和解が成立したことが明らかであるけれども、それは後年度のことであるからその時に税法上の損金処理等の操作をすれば足りることであるから、本件昭和三一年度の利息収入の計算に当つてこれを考慮に入れることは許されないものというべきである。

16、貸付先伊代田政治分

早川証言によつて成立を認める乙第一七号証および同証言によれば、原告は訴外伊代田政治に対し昭和三一年八月三一日金六万円を月五分の利息の定めで貸付け、同人から昭和三一年度中に金一二、〇〇〇の利息収入を得ていることを認めることができ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

17、貸付先鈴木俊雄分

早川証言によつて成立を認める乙第一八号証の一、同証言、成立に争いない乙第一八号証の二、甲第二八号証によれば、原告は訴外鈴木俊雄に対し(イ)昭和二九年一〇月に金一一万円を訴外夏目健一郎を保証人として利息一ケ月につき金一万円を支払う約で貸付け、天引一回分(金一万円)を含めて七回位右約定利息の支払を受けたが、その後右利息の支払を受けられず、昭和三一年度中にさらに二回分(合計金二〇、〇〇〇円、但し前年度未納分に充当したと思われる。)の利息の支払を受けたがその余の支払がなかつたため訴訟を提起した結果、昭和三二年六月に元利金として金一五万円の支払を得て解決し、また(ロ)昭和三〇年三月八日に金六万三千円を訴外山内直温を保証人として弁済期同月一七日とし、期日に弁済しないときは日歩三〇銭の割合による遅延損害金を支払う約で貸付け、その際金三千円の利息を天引したが、以後右元利金の支払を得られないまま訴訟を提起した結果、昭和三一年二月二一日に元本六万円とこれに対する年四割の割合による遅延損害金の支払を命ずる裁判を受けて決着がつき、昭和三二年七月一六日右山内において右元利金および諸費用として合計金一三万円の支払を受けて解決したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

18、貸付先鈴木喜太郎分

福谷証言によつて成立を認める乙第八号証および同証言によれば、原告は訴外鈴木喜太郎に対し金五万円を利息月九分の定めで貸付け、昭和三一年度中に同人から利息として合計金五、四〇〇円の収入を得ていることを認めることができ、甲第四四号証の二の同訴外人関係記載部分中右認定とくい違う部分は前同様の理由により信用しがたく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

19、貸付先松下勲次分

福谷証言によつて成立を認める乙第一九号証、同証言、成立に争いない乙第三七号証および彦坂証言によれば、原告は訴外松下勲次に対し昭和三一年九月に金三〇万円を月五分の利息の定めで同訴外人所有建物に抵当権を設定し、なお機械、三輪トラツク、電話等を担保物件にとつて貸付け、その際利息として金一万五千円を天引し、同年度中に右勲次から利息として少くとも被告の主張する金五七、五〇〇円の収入を得ていることが認められる。甲第四四号証の二中右訴外人関係記載部分および原告提出の甲第一七号証中右認定とくい違う記載内容は前掲乙号各証の記載に対比してたやすく信用しがたく、他に右認定を左右する証拠はない。

20、貸付先山本七郎分

福谷証言によつて成立を認める乙第二〇号証、同証言および成立に争いない甲第二九号証の一、二、第四一号証を総合すると、原告は訴外山本七郎に対し昭和二九年一〇月五日金五万円を同訴外人所有建物に抵当権を設定し、月一割の利息の定めで貸付け、その際一ケ月分の利息金五千円を天引したが、その後引続き四ケ月分の利息合計金二万円の支払を受けたのみで以後の元利金の返済が得られなかつたので、右建物につき静岡地方裁判所浜松支部に任意競売の申立をなした結果昭和三一年七月二〇日不動産競売開始決定を得、ついで右不動産につき自ら競買申出をして同年一〇月八日最高価金九万八千円にて競落許可決定を得て、同年一一月七日静岡地方法務局雄踏出張所受付第三一五九号をもつて所有権取得登記を経たことを認めることができ、他に右認定を左右する証拠はない。してみると、原告は当時前記貸金に対する昭和三一年度分の遅延利息として昭和三一年一月一日以降昭和三一年一〇月四日までの間の利息制限法所定の年四割の割合による金一五、一七八円の支払を受けたことは容易に推測し得るところである。

21、貸付先法山高澄分

官署作成部分につき成立に争いなくその余の部分を原告本人の供述によつて成立を認める乙第二一号証、官署作成部分の成立に争いなくその余の部分は証人法山高澄の証言によつて成立を認める乙第四七号証、右証言によつて成立を認める乙第四八号証、同証言、成立に争いのない甲第一八号証の一、二および原告本人尋問の結果を総合すると、原告は訴外法山高澄に対し同訴外人所有山林二筆を担保にとつて(イ)昭和三〇年一月一五日から同年三月三日までの間に六回にわたり合計金三三万円を月一割の利息の定めで貸付け、同年七月一八日までに同日までの約定利息と元本のうち金一九万五千円の支払を受けたが、残元本一三万五千円およびこれに対する利息の支払を得られないまま経過し、ついで同率利息の定めで(ロ)同年七月一八日金一万二千五百円、(ハ)同月一九日金三万円、(ニ)同月二二日金三万円、(ホ)同月二八日金八千六百円、(ヘ)同年八月五日金四万五千円、(ト)同月一五日金一二万円、同月二三日金五万五千円を貸付けたが、これらについても利息の支払が得られなかつたので、昭和三一年に原告は右訴外人に対し右貸付金を売買代金として右山林二筆を買受けたものであるからその引渡、ならびに、所有権移転登記手続を求めるとして静岡地方裁判所浜松支部に訴訟を提起したところ、昭和三二年二月二一日当事者間に元利合計金五六七、〇〇〇円の消費貸借にもとずく債務および金五万円の約束手形金債務があることを確認し、訴外人において右金員を昭和三二年六月末日までに支払う趣旨の和解が成立したことを認めることができ、他に右認定を左右する証拠はない。

22、貸付先神村繁一分

早川証言によつて成立を認める乙第二二号証、同証言、弁論の全趣旨により成立を認める甲第三〇号証、成立に争いない乙第三九号証および原告本人尋問の結果を総合すると、原告は訴外神村繁一に対し昭和二九年一二月九日金二万円を、昭和三〇年一月八日金一三万円をいずれも月一割の利息の定めで貸付け前者について一ケ月分の利息金二千円を天引したが、その他の利息の支払を得られず、間もなく当事者間に訴訟が係属し、訴外人において同年九月二日右貸付元本一五万円を弁済供託するなどして推移し、結局昭和三二年夏に右貸付元本に年三割六分の遅延利息が付加されることとなつて落着し、原告において同年一〇月一一日右供託金を払戻すなどして解決したことを認めることができ他に右認定を左右する証拠はない。

23、貸付先寺田善太郎分

福谷証言によつて成立を認める乙第二三号証(一部)、同証言および成立に争いない甲第三一号証、第三七、三八号証、第四〇号証、ならびに、弁論の全趣旨を総合すると、原告は訴外寺田善太郎に対し昭和二九年一一月二九日金二万円を弁済期昭和三〇年三月一日、利息月九分の定めで貸付け、その際弁済期までの約定利息を天引し、ついで昭和三〇年一〇月三一日金一六万円を弁済期昭和三一年一月三〇日、利息月九分の定めで貸付け、その際弁済期までの約定利息を天引した(したがつて、同年一月分一四、四〇〇円は同年度利息収入となる)が、その後右貸金二口に対する元本および利息の支払がなされないまま同年中に当事者間に訴訟が係属した結果、昭和三二年にいたり前記一六万円の貸金額につき利息天引分が一部元本充当とみなされて残元本は金一二万二千五六円とせられ、これに対する年三割六分の割合による遅延損害金の支払義務がある旨の判決が確定したものであることを認めることができる。前記乙第二三号証中右認定とくい違う部分は、甲第三七、三八号証の記載に照らして信用しがたく、他に右認定を左右する証拠はない。

24、貸付先横原猛分

福谷証言によつて成立を認める乙第二四号証および同証言によれば、原告は訴外横原猛に対し、昭和三一年九月に月八分の利息の定めで金六万円を貸付け、その際二ケ月分の約定利息を天引し、同年一二月に右貸付元本および一ケ月分の約定利息の支払を受けて完済となつたもので、結局原告は右猛から同年度中の利息収入として合計金一四、四〇〇円を得ていることを認めることができる。甲第一一号証中右認定とくい違う記載のある部分はたやすく信用しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

25、貸付先田中政雄分

早川証言によつて成立を認める乙第二五号証、成立に争いない乙第三五号証および右早川証言によれば、原告は訴外田中政雄に対し昭和三〇年一二月に金一五万円を月五分の利息の定めで貸付け昭和三一年五月に返済を受け、ついで同年一〇月金一〇万円を同率利息の定めで貸付け、同訴外人から同年度中に右二口の貸金に対するその約定利率による利息収入として合計金四七、五〇〇円を得ていることが認められる。原告提出の甲第一二号証は右認定を妨げるものではなく、また甲第一四号証、第二五号証中右認定とくい違う部分は前掲各証拠に対比してみるとたやすく信用しがたく、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

26、貸付先村松良作分

成立に争いない乙第三八号証の一、二によれば、原告が訴外村松良作に対し金二〇万円を月五分の利息の定めで訴外松下勲次を保証人として貸付けたことが認められるが、その貸付の時期につき昭和三一年四月頃とする乙第三八号証の一中の記載部分は、原告本人の供述により成立を認め得る甲第三三号証の一、二に対比してみるとたやすく信用しがたく、他に右貸付の時期が被告主張の時期であることを肯認し得るに足りる証拠はないから、被告のこの分の主張は理由がないものとするほかはない。

27、貸付先鈴木栄一分

成立に争いない乙第三九号証および彦坂証言によれば、原告は訴外鈴木栄一に対し昭和三〇年一二月に金一〇万円を月九分の利息の定めで貸付け、その際一ケ月分の利息を天引し、以後毎月約定利息の支払を受けていたが、若干延滞分が生じたので昭和三一年五月一三日右延滞利息分を免除して元利金の返済を受けたことが認められ他に右認定を左右する証拠はない。右事実によれば、原告は昭和三一年度中に右栄一から利息収入として同年一月一日以降同年五月一三日までの約定利息の少くとも半額一九、八八五円を得ているものと推測するのが相当である。

28、貸付先神田みさ子分

成立に争いない乙第四〇号証および彦坂証言によれば、原告は訴外神田みさ子に対し昭和三一年一〇月に金三万円を月八分の利息の定めで貸付け、その際一ケ月分の約定利息を天引し、以後大体毎月右利息の支払を受け、昭和三三年三月頃当時の利息延滞分五百円位を免除して元利金全部の支払を受けたこと、したがつて昭和三一年度中に右訴外人から利息収入として金四、八〇〇円を得ていることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

三、ところで、いわゆる貸金業者が利息制限法所定の利率を超過する利率による利息、損害金の定めで金員を貸付けた場合の利息収入を所得税法上の所得の計算においてどのように取扱うべきかについて考察するのに、まづ貸金業者が当該年度において現実に右約定利率による利息、損害金を取得している場合には、法律上は元本の残存する限り右制限利率超過部分は民法第四九一条により右元本の弁済に充当されるものと解すべきである(昭和三九年一一月一八日最高裁判所判決参照)から、一見右超過部分は貸金業者の所得を構成しないものの如くであるけれども、これを税法上よりみるときは、実際問題としては当該年度において貸借の当事者間に紛争が係属し、判決あるいは和解等によつて遡つて右元本に対する弁済充当の処理がなされた場合でない限り、貸金業者は経済的にはこれを利息、損害金として把握し、かつ享受しているのであるから、右金額についてはこれを利息収入として総収入金額に算入するのが税負担の公平に合致する所以であるといわなければならない。しかしながら、貸金業者の催促にも拘わらず右約定利率による利息、損害金の支払が得られなかつた場合にも、右約定利息、損害金を所得税法第一〇条第一項後段の総収入金額に合算すべき「その収入すべき金額」として計算すべきかどうかについては問題がある。元来同法条項に「その収入すべき金額」と規定したいわゆる「債権確定主義」は「所得なきところ課税なし」とする所得税法上の原則に対する徴税技術上の修正規定であつてそれは現在の社会における取引が大量的、かつ、劃一的に行われ、多くの場合当該年度に収入することが確定した債権はこれを現実に同年度に収入があつたと同視しても不当ではなく、かえつてそうみることが徴税手続を迅速、かつ、適正に進め得るからであつて、もしその取引が当事者間に約定されただけでは債権が確定したものとして現実に収入があつた場合と同視するのが不適当であるような場合、例えば右のように貸金業者が利息制限法所定の利率を超過する利息、損害金の定めをしても、右超過部分は無効である(同法第一条第一項、第四条第一項)から、債務者において特に右超過部分を支払う意思、能力を有する場合等特段の事情の存する場合以外は、右約定をしただけでは右超過部分の約定利息損害金の支払を得た場合と同視することを得ないものといわざるを得ないのであつて、かような場合は右約定利率を超過する部分の利息、損害金についてはいまだ所得が確定したとみるべきではなく、前記債権確定主義の適用を排除するのが相当であり、またそうすることによつて「所得なきところに課税する」との批難を免れることができるものといわなければならない。

そこで以上の観点に立つて本件をながめてみると、前項1ないし16、18ないし20、23ないし25および27、28の各貸付先関係において原告が現実に利息収入として受領している合計金七六二、六六三円が原告の昭和三一年度における総収入金額に計上されるべきであることは当然であり、この点の被告主張は正当であるが、同年度中に現実にその支払のなされていないことの明らかである前項15、17、21ないし23についても一律に約定利息、損害金をそのまま収入すべき金額として計上した被告の主張に対してはにわかに賛同しがたく、これを利息制限法所定の利率の範囲内に制限してその利息、損害金の収入すべき金額を確定するならば、前項15の貸付先沢柳三郎分については元金五四、五〇〇円に受領済みの利息二〇、〇〇〇円を約定利息に充当すると昭和三一年八月七日分まで支払済みとなり、同月八日から同年一二月三一日までの右元本に対する年四割の損害金は、八、七二〇円であることが計数上明らかであり、元金一五万円に対する弁済期後の昭和三一年六月一六日以降同年一二月三一日まで年三割六分の割合による損害金は金二八、三五〇円であるから右沢柳関係の同年度中収入すべき金額は合計三七、〇七〇円となる。前項17の貸付先鈴木俊雄分については元本一一万円に対する昭和三一年一月一日以降同年一二月三一日まで年三割六分の割合による損害金三九、六〇〇円および元金六万円に対する同年一月一日以降同年一二月三一日まで年四割の割合による損害金二四、〇〇〇円の合計金六三、六〇〇円が同年度中に収入すべき金額となる。前項21の貸付先法山高澄分についても前同様にしてそれぞれ昭和三一年一月一日以降同年一二月三一日までの間、元本一三五、〇〇〇円に対する年三割六分の割合による金四八、六〇〇円、元本一二、五〇〇円に対する年四割の割合による金五、〇〇〇円、元本三〇、〇〇〇円に対する年四割の割合による金一二、〇〇〇円、元本三〇、〇〇〇円に対する年四割の割合による金一二、〇〇〇円、元本八、六〇〇円に対する年四割の割合による金三、四四〇円、元本四五、〇〇〇円に対する年四割の割合による金一八、〇〇〇円、元本一二〇、〇〇〇円に対する年三割六分の割合による金四三、二〇〇円、元本五五、〇〇〇円に対する年四割の割合による金二二、〇〇〇円の各損害金合計金一六四、二四〇円が同年度中の収入すべき金額となる。前項22の貸付先神村繁一分については前同様それぞれ昭和三一年一月一日以降同年一二月三一日までの元本二万円に対する年四割の割合による金八、〇〇〇円、元本一三万円に対する年三割六分の割合による金四六、八〇〇円の各損害金合計五四、八〇〇円が同年度中収入すべき金額となる。前項23の貸付先寺田善太郎分については元本二万円に対する昭和三一年一月一日以降同年一二月三一日まで年四割の割合による金八、〇〇〇円、元本一六万円に対する同年一月三一日以降同年一二月三一日まで年三割六分の割合による金五二、八六五円の各損害金合計六〇、八六五円が同年度中の収入すべき金額となる。以上15、17、21ないし23の収入すべき金額合計は金三八〇、五七五円となるから右金額を原告の同年度中の総収入金額に加えると、結局総額は、金一三二、三九五円、金七六二、六六三円、および金三八〇、五七五円を合算した金一、二七五、六三三円となることが計数上明白である。

四、以上総収入金額一、二七五、六三三円に対し、これより控除すべき係争年度における総支出金額を検討するのに、その支出費目金額として公租公課金二七、二二四円、交通費金一、五〇〇円、修繕費金二三、六〇〇円、雑費(訴訟費用)金一五二、六〇五円、減価償却費金二六、〇四六円が存在することは当事者間に争いのないところであり、その他に貸倒損失金として被告主張の如き金三三、〇一八円(別紙貸倒損失明細表中一、被告主張分)の存在することは被告の自認するところである。原告は右の他に貸倒損失金として別紙貸倒損失明細表二、原告主張分記載のとおり合計金一八二、〇七三円(原告の主張する金二一五、〇九一円から被告の自認する三三、〇一八円を控除した金額)が存在する旨主張するけれども、前記第二項に逐一認定したところから明らかなように原告の主張するような利息債権の免除等の事実は認められないから右主張を採用するに由ない。

してみると、原告の昭和三一年度における総収入金額一、二七五、六三三円から右総支出金額合計二六三、九九三円を差引くと金一、〇一一、六四〇円となるのであつて、この金額が原告の昭和三一年度における営業所得金額であるといわざるを得ないから結局被告のなした更正決定額金一、二三六、五〇〇円のうち右金額を上廻る部分は失当として取消を免れないものといわなければならない。

五、なお、原告は、被告のなした所得決定額が正しいとするためには単に係争年度において原告が右額を上まわる所得を上げたことを主張、立証するのみでは足りず、右更正決定額算出の根拠となつた内訳の所得につき逐一主張、立証されるべきである旨主張するけれども、本件において原告のなした確定申告はいわゆる青色申告によるものではないからこれに対する更正決定には更正の理由を附記するを要せず、被告は原告の収入、支出の状況または事業の規模によつて所得の金額、損失の額を推計して更正決定をなし得る(所得税法第四五条参照)のであるから、右更正処分取消訴訟において被告がその決定した額を維持するため更正決定当時主張しなかつた収入金額を主張することも何ら違法ではなく、右訴訟において被告の決定した額以上の所得金額が主張、立証せられるならば、その理由のいかんに拘わらず右決定を取消すことは許されないものと解するのが相当であるから、原告の右主張自体採用するを得ない。

六、よつて、原告の本訴請求は、被告のなした更正決定のうち原告の昭和三一年度分営業所得金額金一、〇一一、六四〇円を超過する部分の取消を求める限度においてこれを正当として認容すべくその余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大島斐雄 高橋久雄 牧山市治)

(別紙省略)

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